企業で働いていると誰しもが聞いたことのある引き抜きという言葉。しかし、実際に引き抜きとはどのようなものなのか。
引き抜きにより転職する場合には、通常の転職の流れとは少し異なって進んでいきます。
- 「引き抜きの声がかかる人はどんな人で、何が求められるのか」
- 「引き抜きに応じても良いものなのか」
- 「引き抜きに応じるメリット・デメリットって何」
- 「引き抜きにより転職する際に注意することはあるのか」
通常の転職よりも圧倒的に数の少ない引き抜きによる転職では、こういったものがわからず、転職に踏みきれない人や転職に失敗してしまう人も少なくはありません。
今回の記事では、引き抜きとはどのようなものかを説明した上で、引き抜きによる転職のメリット・デメリットや転職時の注意点を説明していきます。
こちらの記事を参考に後悔のない転職にしてください。
引き抜きとは
引き抜きとは、別の企業から優秀な人材をスカウトして自社に転職させることを指します。
引き抜きの声がかかった時、自分はどう判断し対処すべきなのかわからない人も多いと思いのではないでしょうか。
引き抜きについて解説していくと共に、どんな人が引き抜きにあうのか、またそれは断っても良いものなのかなどを詳しく説明していきます。
引き抜きは違法ではない
引き抜きにあうと、自分の能力が認められて嬉しい反面、今の企業にはなんだか申しわけない気持ちになり、後ろめたさもあると思います。
しかし、引き抜きは決して違法というわけではありません。我が国では日本国憲法第22条にて職業選択の自由が保障されているからです。
引き抜きの話をされた企業の提示する条件を精査し、自分の求めるものと一致する場合には引き抜きに応じ転職することも将来の自分にとっては良い選択となるかもしれません。
ヘッドハンティングとの違いは
引き抜きと似た言葉でヘッドハンティングというのも良く耳にするのではないでしょうか。
引き抜きとヘッドハンティング、どちらも優秀な人材をスカウトして転職させることを意味します。
しかし、違いはヘッドハンティングに関しては、引き抜かれる人材に役職がついているという点です。
どんな人が引き抜きにあい、何を期待されるのか
引き抜きにあう人は企業側にとって必要とする能力を持っていて、優秀な人材であると言えます。
では具体的にどんな人材が引き抜かれることが多いか下記にまとめてみました。
- 営業成績が良く、常に新しい顧客を開拓していっている
- 新しい物や技術・サービスの開発実績がある
- 既に重要なポジションに就いている
- 会社の収益化を考えながら社員をまとめるマネージメント力がある
- 秀でる資格や能力を持っている
- コミュニケーション能力が高く、仕事熱心である
- 周りをよく見て論理的に仕事をしている
- 失敗も糧として学ぶ姿勢がある
- 柔軟な対応ができ、変化を恐れない
- 周りからの信頼も厚く、人脈がある
このように、他の企業で働いていたとしてもその人の価値がわかるほどの能力を持っている人が引き抜かれる人材とも言えます。
また、仕事をする上で、人との関わりは必ず必要となってきます。自分の企業にほしいと思うコミュニケーション能力や人柄も大事になってくるのではないでしょうか。
引き抜かれた人に対しては、上記で挙げた引き抜きにあった理由に相応して、転職先の企業では更なる結果を期待されます。
期待されることが良いことであるか、自分には困難なことであるかの見極めは必要になってきます。
断ることも悪いことではない
引き抜きにあったからといって、必ず応じなければならないということはありません。
引き抜きにあった先の企業や採用条件を確認した上で、転職したいと思えば前向きな返事をすればよいですし、今の企業でもっと働きたい意向があれば、その旨をお伝えし断ることは失礼に値するものではありません。
引き抜きによる転職のメリットとは
引き抜きによる転職は、通常の転職活動を経て転職するのに比べ、以下のようなメリットがあります。
- 給与・待遇面のアップ
- キャリアアップが見込める
- 転職活動の手間が省ける
多少のリスクがある反面、自分の能力が認められてスカウトされているため、通常の転職よりも上記の点においてよい条件で転職できるというのが大きなメリットです。詳しくみていきましょう。
給与・待遇面のアップ
引き抜きにより転職する場合の最大のメリットは給与・待遇面のアップが見込めることだと言えます。
相手側は、自分の企業に転職してもらうために、わかりやすい給与アップを提示する場合がほとんどです。前職の1.5倍~2倍の給与アップを提示されたという例も少なくはありません。
通常の転職時には始めから給与・待遇面を高く望むことは難しいでしょう。
しかし引き抜きの場合、自分の能力や実績を認められているため相手企業から始めから評価されてそれ相応の条件を提示してもらえますし、場合によってはこちらから交渉する土台に立つこともできるのです。
キャリアアップが見込める
引き抜きにより転職する場合、転職先ではある程度の役職や役割をすぐに与えてもらえる場合が多くあります。
そのため、成果を出すためのチャンスが多くなりますし、その分注目もされます。順調に成果を出していけば、キャリアアップは通常の転職よりも有利であるというのもメリットの1つです。
転職活動の手間が省ける
「転職活動の手間が省ける」というのは、引き抜きによる意外と大きなメリットでもあります。
通常の転職活動では、時間も労力も必要となります。そして、どれだけ計画を立てて進めたとしても転職先が決まるかはわからないという精神的な不安。
これらの精神的負担と時間的負担が引き抜きによる転職の場合はなく、相手側の企業から良い条件で転職の話を持ってきてくれるため、後は適切な判断をすればよいということになるのです。
引き抜きによる転職のデメリットとは
- 過度な期待をされる
- 提示された条件と実際の条件が異なる場合がある
- 人間関係のリスク
引き抜きにより転職をする際には通常の転職時とは異なる点があり、それがデメリットとして生じる場合があります。
以下で説明するデメリットを十分に理解した上で、転職を決断する場合には、できる限りの対策を講じる必要があるでしょう。
過度な期待をされる
現在の企業であなたが成し得た実績や結果、スキルが認められて引き抜きの声がかかっています。
そのため、引き抜きによる転職の場合には、転職先での即戦力として結果や実績を期待されることが多くあります。
その期待とチャンスをモチベーションに繋げられることももちろんあります。しかし、転職先で思うような結果がなかなか出せない場合、周囲からの過度な期待や対応が変わるというデメリットがあるというのも現実です。
提示された条件と実際の条件が異なる場合がある
引き抜きによりスカウトされる場合、もちろん相手側は自分の企業に転職してほしいため良い条件を提示してきます。
企業によってはヘッドハンターなる、優秀な人材を引き抜くことを専門にしている人が交渉にあたってきます。
そんな中で、口頭で始めに提示された転職の条件と実際に働き始めた条件が異なるという場合もあります。
転職を決断する場合には、書類での確認や納得できるまで話を聞くということが後悔をしないために必要となります。
人間関係のリスク
引き抜きによる転職で考えられるデメリットとして一番懸念されるのが、人間関係のリスクです。
これが複雑なのは、現在の職場における人間関係と転職後の職場における人間関係の2種類が考えれるからです。
現在の職場では、引き抜きで転職をするということが知られた場合に、風当りが強くなる場合があります。
また、転職先では引き抜きにあったあなたを見る目は通常の転職者とは異なるというこを意識する必要があるでしょう。
引き抜きによる転職の注意点7つ!
引き抜きによる転職の場合、今の職場よりも良い条件で転職できる可能性が高いため、すぐにでも承諾してしまいたくなりますが、注意しなければならないポイントもあります。
引き抜きの場合、特有の下記の事柄に注意しながら慎重に判断していきましょう。
転職先の労働条件を確認する
引き抜きをされる場合には、もちろん相手側の企業も良い条件を強調して声をかけてきます。
給料や役職だけはかなり良い条件で転職ができても、その他の労働条件が良くない場合、結果として話と違う、転職を後悔したということになりかねません。
特に以下のポイントを転職の承諾をする前に確認しておくことをオススメします。
- 給与だけではなく、福利厚生や昇給について
- 残業や休暇の取得について
- 転職後のポスト(役職)と与えられる役割について
- なぜ自分が必要とされたか
- 部下を含む職場の人間関係について
転職先の企業に、あなたが必要とされた理由を聞いてみると良いでしょう。
それだけのスキルやノウハウを持ち合わせている人が社内にいない場合と、現在そのポストに就いている人がいるが成果を出していないという場合では、あなたが転職して働き始めた際の周囲の反応が変わってきます。
あなたが引き抜きで採用されたことで降格した人がいる場合には、転職後の働きやすさが変わってくるかもしれません。
企業分析を行う
労働条件を確認すると共に、企業分析も行いましょう。あらかじめどんな企業かを知ることで、転職後に「こんなはずではなかった…」という事態を避けられます。企業分析を行う際は主に下記の項目に注目しましょう。
- 企業規模
- 仕事の内容
- 勤務地
- 給与
- 労働時間
- 福利厚生
- 休みの取りやすさ
現職(転職前の企業)の競業避止義務を確認する
競業禁止義務とは勤務している企業と労働者との間で交わされる契約のことで、雇用契約や就業規則で交わされる場合があります。
内容としては、勤務している企業と競合している別の企業への就職や会社の設立を禁止するというものです。
在職中に得たスキルやノウハウを他社へ流出するのを防ぐためのものですが、これに反した場合には、退職金の減額や訴訟などのペナルティが発生するという記載をしていることもあるため、確認する必要があるでしょう。
競業避止義務は在職中または退職した後の事に関して対象とされることが多くあります。
しかし、日本国憲法で保障されている職業選択の自由も忘れてはなりません。そのため、厳密にいえば退職後に関しては、法的効力はないのです。
しかしながら、転職前の企業にも多大な損害などを与えないための配慮は必要となってくるでしょう。
情報の取り扱いには細心の注意を払う
競業避止義務がありながらも同職種に転職することは可能であるとしても、注意しなければならないのが守秘義務です。
転職前の企業で知り得た情報や顧客、ノウハウやデータなどを転職先で流出することは、退職後であっても規約違反となります。
転職内定が出て、上司に報告する前には同僚に話さない
引き抜きの話を受けた場合、誰かに相談したくなる気持ちもわかります。
しかし、転職することを決断して上司に報告をする際に同僚などに話をして、もし社内で広がってしまったら。
この会社を裏切るという目で見られ、働きにくくなることは避けられませんし、もし、引き抜きを断ってこのまま働き続けるという決断をした場合にも信用を失いかねませんので、転職の内定が出て、上司に報告をする前には会社内では話さないことをオススメします。
現在の職場のフォローを怠らない
引き抜きを受けて転職を決めたとしても、現在の職場のフォローを怠らないことはとても大切です。
仕事を疎かにしないこと、職場の人には感謝を伝えること。これらを疎かにすると、退職までの期間が働きにくくなってしまいますし、対応が良くない、仕事を疎かにしているという情報が転職先に伝わったとき、最悪の場合は引き抜きの話がなくなってしまう可能性もあります。
引き抜きという特殊な場合だからこそ、周囲や仕事へのフォローは最後まで丁寧に行いましょう。
転職に迷ったら転職エージェントを活用する
引き抜きを受けて、転職すべきかどうか迷った場合には、ぜひ転職エージェントに相談してみましょう。
適切な対応方法や、提示された条件が良いものであるのかなどをトータル的にアドバイスしてくれます。
また、引き抜きを受けた企業だけではなく、それよりも好条件で転職できる他の企業などを紹介してくれる場合もあります。
引き抜きによる転職の面接について
引き抜きの話を承諾し、転職を決断した時でも形式は異なるにせよ面接というものが存在します。
引き抜きのオファーが来たから承諾をすれば採用になるのだろうと思って、面接対応を疎かにしていると、面接で不採用になるというケースもないわけではありません。
引き抜きによる転職の場合の面接について理解し、適切な対策をとって臨みましょう。
面接方法
引き抜きによる転職の場合、面接の方法は通常の採用面接とは異なります。大きく分けて以下の3つのタイプが考えられます。
- ヘッドハンター本人との面接
- 企業採用担当や上司との面接
- 転職先のイベントや勉強会等へ誘われ、人事との顔合わせ面談
いずれにせよ、通常の採用面接より形式としては柔らかい印象があります。
しかし、直接引き抜きの声かけをしてきた①ヘッドハンター本人との面接意外の場合には特に、採用可否の判断をされているという視点をもって、適切に対応・返答をしなければなりません。
志望動機の伝え方
引き抜きにより転職を決断した場合においても、伝える志望動機はとても重要です。
直接的な理由は、「声をかけてもらったから」という理由かもしれませんが、もちろんそのままを伝えるのは好ましくありません。
引き抜きの声をかけてもらって、自分は転職先の会社でどんな成果を上げていきたいと思い、それが実現できると思った理由を自分の言葉で伝えましょう。
また、自分はこれからどのような経験を積みスキルアップしていきたいと思っているかの将来像をしっかりと志望動機として伝えること必要です。
そのためには、良い条件だから引き抜きを承諾するという決断をするのではなく、しっかりと自分自身と将来を見越して転職の決断をする必要があるのです。
面接で判断されるポイント
引き抜きによる転職面接の場合、転職先の企業の方があなたの実績やスキルを理解しオファーしてくれているので、通常の採用面接時よりは、相手方があなたの仕事面に対する情報を既に持っています。
もちろん細かな仕事内容やスキル、実績などを再度確認するためにこれまでの仕事内容や成果実績なども聞かれるでしょう。
しかし、引き抜きされるくらいスキルや実績を認められているので、実際に面接で見られるポイントは、人柄や仕事に対する向き合い方であることが多いです。
いくらスキルがあっても、企業として仕事をしてもらうための対人スキルや思いやり、仕事に対する真摯さが欠けていれば、採用するかを考え直してしまいます。
転職先の企業についてもしっかりと理解した上で、面接対応も怠らない姿勢が採用に繋がるということも意識しておきましょう。
引き抜きを断る際のメールの例文
先述した通り、引き抜きを断ることは、決して失礼ではありません。しかし「どんな風に伝えれば角が立たないものか…」と悩んでしまいますよね。そこでこの章では、お断りのメール例文をご紹介します。
悩んだ末にお断りする場合
「せっかく引き抜きのお話を頂けて悩んだけれど、やっぱり今の会社で研鑽を積みたい」という場合には、今は転職をするタイミングではないという旨を正直に伝えましょう。
引き抜きのお断りメール例①
この度は貴社にお声がけして頂き、本当にありがとうございます。ただ、現職でより経験を積みたいと考えており、誠に残念ではございますが、今回は見送らせて頂きます。せっかくのオファーに応えられず、誠に申し訳ございません。
「今回は」と伝えることで、次回の可能性を残しつつ「見送らせて頂きます」と丁寧にお断りすることで、柔らかな印象を与えることがポイントです。
キッパリお断りしたい場合
「せっかく引き抜きして頂けたけど、やっぱり労働条件が納得できなかった」「引き抜き先で自分が活躍している姿を想像できない」など、引き抜きをお断りしたい場合もあります。しかし、これらの理由をはっきり伝えることは、波風を立てる要因になるので禁物です。その代わりに「転職の意思はない」ということをはっきり伝えましょう。
引き抜きのお断りメール例②
この度は貴社に高く評価して頂き、誠に光栄でございます。しかし、転職する意思はございませんので、誠に申し訳ございませんがお断りをさせて頂きます。貴社とのご縁は大切にしていきたいので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
引き抜きによる転職成功のために
引き抜きという転職は絶対数が少ないため、わからないことも多いと思います。
特殊な転職の形だからこそ、デメリットやリスクも潜んでいますが、一つ一つ確認したり、真摯に対応することで回避できるものがほとんどです。
もちろん引き抜きを受けたからといって、今の企業でもっと働きたいと思えば断ることも悪いことではありません。
もし別の企業で新しい挑戦をしたい、スキルアップを目指したいという想いがあるのであれば、条件をしっかりと見極めた上で引き抜きに応じることもあなたにとって良き転機となると思います。
こちらの記事を参考に、後悔のない決断をできるよう検討してみてください。